パンは文化だから伝統行事で使われている

パンの豆知識

西洋の人たちにとって、パンは重要な食物であるだけでなく、文化でありアイデンティティといってもよいでしょう。
例えばナショナルブレッドという考え方があります。直訳すると「我が国のパン」。フランスパンやイギリスパン、ドイツパンという言葉があり、これは「我が国のパン」という意識が強いことから生まれたものです。

そのため西洋にはパンを使った伝統行事が数多く存在します。この記事ではその一部を紹介します。
日本にもパン関連の行事があるので紹介します。

【西洋全体のパン行事】教会でパンを与える

パンは文化だから伝統行事で使われている

まずは西洋全体に共通するパン行事から。

パンを使った伝統行事で真っ先に紹介しなければならないのは、キリスト教の教会で神父が信者に、ひと口サイズにカットしたパンを与える行為でしょう。
小さいせんべいのような形をしたものを与えることもありますが、これもパンを意味しています。

「これ(パン)は私の体である」

キリスト教にとってパンは重要な意味を持ちます。 それはイエス・キリストが最後の晩餐のとき、一緒にテーブルについた弟子たちにパンを与えて「取って食べなさい。これ(パン)は私の体である」と言ったからです。 この出来事からキリスト教では、信者が霊的な糧をいただく様子を、神父からパンをもらう形で表現しているわけです。

【アメリカのパン行事】感謝祭で七面鳥と一緒に食べるコーンブレッド

【アメリカのパン行事】感謝祭で七面鳥と一緒に食べるコーンブレッド

続いてアメリカのパン行事を紹介します。

アメリカにおいて、パンが関係する伝統行事といえば感謝祭です。
正式名称はサンクスギビング・デーといい、毎年11月の第4木曜日がその日になります。
感謝祭がこの時期に行われるのは、作物の収穫がひと段落するからです。獲れた作物は神からの贈り物なので、それに感謝するために開かれます。

小麦粉を使わないパン

感謝祭は家族で祝うのが一般的で、このとき振る舞われるのがローストターキー、つまり七面鳥の丸焼きです。
七面鳥は腹のなかに米やパンなどを詰めて焼きます。そしてローストターキーはクランベリーソースをつけて食べます。クランベリーは果物の名前です。

このとき食べるパンが、トウモロコシ粉でつくったコーンブレッドです。
日本では、小麦粉でつくるロールパンにトウモロコシの粒を入れたものをコーンブレッドと呼ぶこともありますが、アメリカでは小麦粉の代わりにトウモロコシ粉でつくったものがコーンブレッドです。

【イギリスのパン行事】持って走ってレースをする

【イギリスのパン行事】持って走ってレースをする

パンはパンでも、パンケーキを使った伝統行事で有名なのがイギリスです。
パンケーキも小麦粉を練って焼いてつくるので「パン」行事として紹介します。

イギリスのパンケーキ行事は変わっていて、パンケーキを入れたフライパンを持った人が複数人並び、よーいドンで走り出します。徒競走をするわけです。
走っている途中で、パンケーキを何度かひっくり返さなければなりません。
そしてゴールには、空のフライパンを持った人がいて、走者はその人のフライパンに自分のパンケーキを入れます。すると走者が入れ替わって、パンケーキをもらった人が走り出します。
この徒競走はリレー形式なのです。

復活祭のイベントとして

ずいぶん騒がしいパン行事ですが、これにも意味があります。
このパンケーキ・リレーは、キリスト教のイースターに行われます。
イースターは日本語で復活祭といい、十字架にかけられて亡くなったイエス・キリストが復活したことを祝福する祭りです。開催日は宗派によって異なりますが、4月か5月に行われます。

イースターを象徴する食材は、実はパンでもパンケーキでもなく卵です。卵は生まれてくるものの象徴といえるので、イエス・キリストの復活を連想させるからです。

ではなぜイギリスではイースターでパンケーキ・フライパン・リレーが行われるようになったのか。
それはイギリスでは、イースターの前後は贅沢なものを食べることが禁じられていたからです。それで、ほとんど小麦粉しか入ってないパンケーキを食べる風習が広がったのです。

ミサに行くため、あわててフライパンを持って走った

では、イースターにパンケーキを食べる風習が、悪ふざけでパンケーキ・フライパン・リレーに変化したのかというと、そうともいい切れません。
15世紀のイギリス。ある女性がパンケーキを焼くのに夢中で、その日にミサがあることを忘れていました。ミサの開始を知らせる教会の鐘の音を聞いたその女性は、あわててパンケーキがのったフライパンを持って家を出て教会まで走った、というのです。
パンケーキ・フライパン・リレーはこの逸話から生まれました。

【イタリアのパン行事】心温まるストーリーがある飾りパン

イタリアには飾りパンや細工パンというジャンルのパンがあります。
日本料理で鶴やバラの形のしたニンジンや大根が出ることがありますが、飾りパンはこれと似ていてパンで花や人間をつくったりします。ちゃんと食べられる装飾用のパン、といった感じです。

貧しい人にパンを与えた偉大な先人を祝うため

イタリアのサレミという小さな村で、年に1回「サン・ジュゼッペの夕食」という祭りが開催されるそうです。ジュゼッペはイエス・キリストの義理の父で、この祭りはその人を祝うものです。
この祭りで村人たちは、おのおのキレイな、そして見事な飾りパンをつくります。
これはジュゼッペが、貧しい人や弱い人にパンなどの食事を与えたことに由来しています。

【ブルガリアのパン行事】ヨーグルトと銀貨が入った特別なパン

【ブルガリアのパン行事】ヨーグルトと銀貨が入った特別なパン

さすがはブルガリアと思えるのが、ヨーグルト入りのパン、ポガチャです。 ポガチャはクリスマスという1年で最も大きなイベントのときに家庭で焼くパンで、セレモニー用のせいでしょうか、ホールケーキくらいの大きさがあって円柱形をしています。

家庭の主導権が決まる?

ポガチャにはヨーグルトが入っていることと円柱形であることのほかにもう1つ特徴があって、それは銀貨が1枚入っていることです。
家族が集まったら、一番の年長者がポガチャを切りわけて、なかの銀貨を取り出して聖母マリア像の前に置きます。

またポガチャは結婚式でも使われることがあります。
新郎と新婦がポガチャを握り、引っ張り合います。そして手にしたポガチャが大きいほうが新しい家庭の主導権を握るそうです。

まとめ~食物に感謝しながら

まとめ~食物に感謝しながら

西洋のパン関連の伝統行事は、宗教色が強いことがわかります。
ただ日本でも仏壇にご飯をお供えする風習があることから、主食と神様を結びつけることは理解しやすいと思います。

ちなみに日本には、子供の1歳のお祝いに「一升餅」をその子に背負わせる行事がありますが、餅の代わりにパンを使うご家庭も増えてきているようです。

東洋と西洋でパン行事は随分違いますね。
西洋の場合はイエス・キリストが印象的な言葉(「これ(パン)は私の体である」)を遺しているので、より強くパンと宗教がつながっているのでしょう。
神様に感謝するように食物に感謝する人もいると思います。それが行事となって長く続き伝統になっていくのでしょう。