パン好きなら知っておきたい「バターのこと」 そして発酵バターって何

パンの豆知識

パンづくりに欠かせない材料を3つ挙げよ、といわれたら、迷わず小麦粉、酵母、塩と答えるでしょう。
では4つ目のパンに欠かせない食材はなんでしょうか。これは意見がわかれるところですが、候補の1つにはバターは挙がってくるでしょう。

また、バターはパンの材料になるだけでなく、焼きあがったパンにぬって味わうこともでき、パンをより幅広く楽しむのに適した食品でもあります。
パンをより深く知るには、バターに関する知識は必須です。

バターを使ったパン

パン好きなら知っておきたい「バターのこと」 そして発酵バターって何

バターについて解説する前に、バターを使ったパンを紹介します。
バターを使ったパンは、大きく分けて2種類の製法があり、その特徴によって製法を使い分けています。

1つ目は、生地にバターを練り込む製法。
2つ目は、生地にバターを折り込む製法。

それぞれの特徴や主なパンをご紹介します。

バターを練り込むと、ふんわり軽いパンに

生地にバターを練り込む製法の代表的なパンは、バターロールや食パン、ブリオッシュです。
それはバターに含まれる油脂が、パンをふっくらさせ軽い食感を生むからです。

「パンをふっくらさせるのはパン酵母なのではないか」と思うかもしれませんが、酵母だけでなくバターにもパンをふっくらさせる作用があります。

原材料の量が同じでも、ふっくらしないと小さくなり、ふっくらすると大きくなります。それでバターを含まないパンはどっしりした食感になり、バターを含んだパンは軽い食感になるわけです。

バゲットだけでなく、硬いパンとして知られているドイツパンの多くもバターを入れません。

バターを折り込むと、サクサクなパンに

生地にバターを折り込む製法の代表的なパンは、クロワッサンやデニッシュです。

クロワッサンがサクサクの食感なのは、パン生地とバターを薄く伸ばして何層にも重ねているからです。
クロワッサンは、パン生地→バター→パン生地→バター→パン生地→バター…という構造になっているのです。

練り込み製法と違い、バターが生地と生地の間にそのまま残っているので、バターの味をダイレクトに感じやすいのも特徴と言えます。

バタールはバターを使っていない!

ちなみの話ですが、フランスパンと呼ばれるバゲットは、原則バターを含みません。また、バゲットに似たフランスパンにバタールがありますが、名称に「バター」とついていますがバターを含みません。
バタールはフランス語で「中間の」という意味で、バゲットとドゥ・リーヴルの間のため、こう名づけられました。

バターとは

バターとは

バターはものすごく簡単に紹介すると、牛乳の脂(あぶら)を固めたもの、となるのですが、パン好きならもっと深く知っておいたほうがよいでしょう。
バターの定義を確認していきます。

法律上のバターとは

バターには法律上の定義があります。「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」の第2条に次のように書かれてあります(*)。

では、生乳とは、牛乳とは何なのかというと、これもこの省令で定められています。

牛の乳房から出たものを生乳、それを商品化したものが牛乳というわけです。
話をバターに戻すと、この省令はバターの成分も次のように定めています。

バターが法律(省令)で定められていることはとても重要で、これは上記の規格に当てはまるもの以外はバターではないということを意味します。

(*)乳及び乳製品の成分規格等に関する省令 | e-Gov法令検索

バターづくりが大変なのは生乳の数%の脂肪分を80%以上にしなければならないから

バターづくりが大変なのは生乳の数%の脂肪分を80%以上にしなければならないから

法律(省令)のバターの定義で注目したいのは乳脂肪分です。バターと名乗るには80%以上を確保しなければなりませんが、普通の牛乳(生乳に近いもの)の乳脂肪分は4%程度しかありません。
乳脂肪とは生乳や牛乳の脂肪成分のことです。4%程度しかないから牛乳を飲んでも「脂(あぶら)っぽい」とは感じないわけです。

先ほど紹介したとおりバターは牛乳や生乳からつくるわけですが、そうだとすると数%の乳脂肪分を80%以上にまで高めていかなければなりません。
実はバターは、到底「牛乳の脂(あぶら)を固めただけ」でつくれる代物(しろもの)ではありません。
バターは、生乳からクリームをつくり、クリームの脂肪粒を集めて固めてつくります。

バターを「バターたらしめている」のは乳脂肪分であり、生乳に数%しか含まれていない乳脂肪を80%以上の濃度になるまで集めるには相当な技術が要り、つまり、簡単には生乳はバターに変わらないのです。
「バターを知る」には、バターのつくり方の知識が欠かせないでしょう。

バターのつくり方

バターづくりは、生乳からいかに効率よく乳脂肪だけを集めるかの戦い、といっても過言ではありません。 バターづくりの大まかな流れはこのようになっています。

1つずつみていきましょう。

バターづくりが大変なのは生乳の数%の脂肪分を80%以上にしなければならないから

搾乳から集乳

酪農家が牧場で飼っている乳牛から生乳を搾ることを搾乳といいます。その生乳はタンクローリーで集められ、これを集乳といいます。
生乳を積んだタンクローリーはバター工場に運ばれます。
牧場とバター工場が直結していることがわかると思います。

貯乳

タンクローリーでバター工場に運ばれた生乳は、タンクに貯乳され加工を待ちます。

クリームをつくる

クリームとは、生乳を遠心分離器にかけて乳脂肪分を40%にまで高めたものを指します。
バターの乳脂肪分は80%なので、クリームにしてもまだまだ全然乳脂肪分が足りません。
クリームの乳脂肪分をさらに濃くしたのがバターです。

クリームを殺菌し冷却する

クリームを加熱して殺菌し冷却します。

エージング(低温保持)

冷却したクリームをタンクに入れ、5度前後の低温で8~12時間ほど保持します。
こうすることでクリームのなかの乳脂肪が結晶化して脂肪球ができます。
脂肪球とは乳脂肪でできた球形のもので、球になると乳脂肪を取り出しやすくなります。
この工程をエージングといいます。

チャーニング(攪拌(かくはん))

攪拌とは、激しくかき混ぜること。
エージングが済んだクリームを攪拌すると、乳脂肪の脂肪球からタンパク質が取り除かれ、純度の高い乳脂肪ができます。これをバター粒といいます。
ここまで「生乳→クリーム→脂肪球→バター粒」と変化してきたことになります。

水洗い

バター粒を取り出して水洗いをします。こうすることでバターの風味がよくなります。 また水洗いをすることでバター粒の乳脂肪の割合がさらに高くなります。

加塩

加塩バターはここで塩を加えます。塩を加えることでうまみが増えますし、保存もきくようになります。

ワーキング(練圧)

バター粒を練り合わせる作業をワーキング(練圧)といいます。
これによりバター粒のなかに含まれている気泡を抜くことができ、また、水分濃度と塩分濃度が均一になり味が整います。
あとは容器に充填して完成です。

発酵バターとは

バターには発酵バターと非発酵バターがあります。
日本で普通に売られているバターの大半は非発酵バターで、先ほど紹介したバターのつくり方は非発酵バターのつくり方です。

発酵バターは、生乳からクリームをつくったあとに、乳酸菌を入れて発酵させます。
日本ではあまり普及していませんが、ヨーロッパでは古くからあるつくり方です。

発酵バターは非発酵バターよりコクがあって、風味が強いとされています。
発酵バターを菓子に使うと、バターの味が強調され一味違うスイーツになるでしょう。

まとめ~ぬってよし加えてよしのパンの友

まとめ~ぬってよし加えてよしのパンの友

パンとバターは切っても切れない縁で結ばれています。
バターはパンの重要な材料であり、バターを使わないパンでも、焼いてバターをぬれば楽しみ方の幅が広がります。
バターはパンの魅力を引き立てる強力な友といったところでしょう。