近年、国産小麦が注目を集めていますが、今回は、国産小麦の特徴や、品種、これを使う利点などを解説します。
日本で流通している小麦は、その9割が輸入品で、国産は1割程度です(*1)。
国産小麦と輸入小麦は性質が違うので、それぞれに合った使い方があります。
また、もともと日本では、気候がパン用の小麦栽培に向かなかったため、うどんや菓子などに使われる品種の小麦が主に栽培されてきました。しかし最近は品種改良が進み、パンづくりに向く品種が開発され、国産小麦でつくられるパンが注目されています。
*1:小麦はどこの国から輸入(ゆにゅう)されているのかおしえてください:農林水産省
農林水産省によると、日本で流通している小麦の9割が輸入品で、国産は1割しかありません。したがって、国産小麦でパンを作っているパン屋さんは、小麦へのこだわりがきっと強いパン屋さんでしょう。
具体的な数字は以下のとおりです。
■年間流通量(2016~2020年の平均)
●輸入小麦:488万トン(86%)
●国産小麦:82万トン(14%)
日本にやってくる輸入小麦の生産国は1位アメリカ、2位カナダ、3位オーストラリアで、この3カ国でほぼ全量をまかなっています。
国産小麦の生産量上位5品種は次のとおりです。
1位、きたほなみ
2位、ゆめちから
3位、さとのそら
4位、春よ恋
5位、シロガネコムギ
それぞれの特徴をみていきましょう。
きたほなみは、今でこそ小麦大国北海道の主力品種ですが、本格生産が始まったのは2011年からと「新人」です。
きたほなみは薄力粉、中力粉に加工されたり、強力粉とブレンドしたりして、パン、麺、菓子に使われています。
きたほなみの汎用性が高いのは、国産としては大量生産されているので、ブレンド小麦として使われるからです。
便利だから多く生産され、多く生産されるので便利に使われる、という好循環にあります。
ゆめちからは北海道で主に生産される強力粉用の小麦で、他の品種と比べてとてもグルテンを多く含む小麦です。グルテンについて詳しくは後述しますが、グルテンを多く含む小麦でパンをつくると、よく膨らみ、ボリュームが大きいパンができます。ゆめちからは、国産小麦の中でも特にグルテンを多く含むため、日本でもともと栽培されてきた中力粉とブレンドすることにより、国産小麦のみで安定的にパンづくりができるようになりました。
またゆめちからのもう一つの特徴として、パンに使うと粘り気が強まり、もっちり感のあるパンをつくることができます。
さとのそらは埼玉県や千葉県などで栽培されている品種です。
さとのそらは、従来の主要品種であった農林61号(先ほどのランキングでは7位)の後継品種と位置づけられています。
農林61号には、成熟が遅い、稈(かん、茎のこと)が長くて倒れやすい、病気に弱いといった欠点がありますが、さとのそらはその欠点を克服しました。千葉県などはさとのそらを小麦奨励品種に指定しています(*2)。
さとのそらは主に菓子に使われます。
春よ恋は、今、パン屋さんが最も注目している小麦の一つといえるでしょう。
春よ恋は強力粉に加工され、これを使うと、フワフワ感とモチモチ感という相反する性質をパンに持たせることができます。「春よ恋は、日本人が好むパンをつくりやすい」といわれることがありますが、それはこのフワフワ・モチモチのおかげではないでしょうか。
また、春よ恋でつくるパンは甘味や旨味が強く、小麦本来の味わいが楽しめます。
シロガネコムギは関東から西で栽培されることが多い小麦で、埼玉県、静岡県、兵庫県、鳥取県、佐賀県が奨励品種に指定しています。
シロガネコムギは耐倒伏性が強く(穂が倒れにくく)、病気に強く、製粉性に優れているという特長があります。麺に加工されることが多い小麦です。
国産小麦でも輸入小麦でも、強力粉、中力粉、薄力粉をつくることができますが、両者はグルテン量が大きく異なります。
輸入小麦と比較すると、国産小麦の特徴がさらにくっきりわかるでしょう。
「小麦にはグルテンが含まれ、これがパンや麺の粘り気や弾力の元になっている」といわれることがありますが、これは厳密にいうと正確ではありません。なぜなら小麦にはグルテンが含まれていないからです。
小麦には、粘着力や伸びやすさを生むグリアジンと、弾力性を生むグルテニンが含まれています。小麦に水を加えてこねると、グリアジンとグルテニンが結びつき、粘着力、伸び、弾力という性質を持つグルテンに変化します。
つまりグルテンは、最初から小麦に含まれているわけではなく、水を足してこねるという加工を加えることで誕生するわけです。
だからパンづくりでは「こね」が重要になるわけです。
さて、日本で主に栽培される国産小麦と輸入小麦の最大の違いは、このグルテンの量であるとされています。
日本で主に栽培される国産小麦はたんぱく質の割合が低く、そのためグリアジンとグルテニンの量も少なくなり、その結果、こねてもあまりグルテンが生れません。
一方の輸入小麦は、たんぱく質が多くグルテンが多く生まれます。
そのため、パンづくりに向いており、日本ではまだまだ輸入小麦の方が主流です。
しかし、ゆめちからや春よ恋などのパンに向く品種の登場により、国産小麦でもよく膨らんだ、ボリュームが大きいパンがつくれるようになりました。
国産小麦には輸入小麦にない特徴があることがわかりました。そのため、輸入小麦が9割を占める日本で、国産小麦を利用するパン屋さんが増えれば、それだけパンのバリエーションが増えて食卓がにぎやかになるはずです。
では国産小麦の栽培や生産は今後、増えていくのでしょうか。そして国産小麦はもっとたくさん流通するようになるのでしょうか。
国産小麦の商機の一つは、輸入小麦の値上がりです。
ウクライナ危機などの国際情勢の悪化で、輸入小麦の価格が高騰し、日本における輸入小麦の価格も上がっています。
日本の輸入小麦の価格は日本政府が決めているのですが、その価格は2021年10月に19%、2022年4月に17%も値上がりしました(*3)。
かつて国産小麦の価格は輸入小麦に比べて相当割高だったので、パン屋さんが国産小麦100%のパンをつくると、どうしても高い値段をつけるしかありませんでした。これでは消費者は気軽に国産小麦100%のパンを買うことができません。
しかし輸入小麦が値上がりすると国産小麦との価格差が小さくなる可能性があり、パンの価格差も縮まるかもしれません。
「それなら国産小麦100%のパンを買おう」と考える消費者が増えるかもしれません。
国産小麦、輸入小麦にはそれぞれ特徴があり、流通量や価格も異なります。
どちらでつくったパンがよりおいしいではなく、それぞれに良さがあるのではないでしょうか。
しかし国産小麦の食料自給率が14%と圧倒的に低いことは、紛れもない事実であり、小麦は国際情勢の変化に左右されやすい食品の一つです。将来、小麦の不作により、食卓にパンが並ばないという日が来るかもしれません。
そんな日がこないために、国産小麦の生産・消費を増やすという観点で、国産小麦でつくったパンを選んでみてはいかがでしょうか。